

執筆者:後藤ようこ
聞き上手は話上手
- 2014年01月20日
- コラム
話さない客
先日、デジタル一眼レフカメラを見に、大手電気店に行った。
インターネットで、ある程度は情報を調べ、ほぼ決め打ちしていたが、実際の大きさや操作感覚、ファインダーを覗いた感じを見たくて売り場へと足を運んだのだ。もちろん、安ければ店舗で買ってもいいな、と思っていた。
デジカメ売り場は、とても混雑していて、人気の機種の周りには数人集まり、多くのお客さんが品定めをしていた。私もご多分にもれず、展示してあるデジカメを触りながら、デモ機のファインダーを覗いたりする。すると、あるベテラン店員さんと思わしき女性スタッフの高らかな声が耳に入ってきた。
子どもを連れた家族連れ(3人)に、展示してあるデジカメの解説をしているようだ。その解説は延々と続き、否が応でも耳に入る。“まるで、私にも解説してくれるようだな。”とさえ思えてくる。(笑)
その説明はとてもわかり易すく、なにより熱く語っているので熱意が感じられる。しかし、切れ間なく解説されるため、お客さん側はほとんど沈黙していて、会話を差し挟む余地さえない。
解説はとてもプロフェッショナルで、知識も豊富。小耳に挟む限りでは、最近のデジカメの事を熟知しているようだ。合いの手を挟む事もできないくらいのマシンガントークは、家族連れのハートをどんな風に揺さぶるっているのだろうか?私は、その後の結末が気になって気になってしょうがない。
話も終盤にさしかかり、ほぼ本命だろうという機種の前でのプレゼン。財布のヒモを握っているだろう妻の反応はどうなんだろう?ワクワクする。
すると、鶴の一声!
「そうですねぇ。では家族会議して買いに来ます!」
・・・・・・・。でた、困ったときに出る「家族会議」という一言。
その会議ではどんな結論になるのだろうか?
いや、本当に、その会議は開かれるのであろうか?
そして、会議後は、必ずこの売場に戻ってきてくれるのだろうか?
人事ながら、このくだらないことが気になる。
結局、私が売り場に来る前から延々と繰り広げられたであろう店員さんのプレゼンは、「家族会議」の壁に阻まれ、その家族は売場を後にしたのだった。
感情で買い、理由を後付けする心理
この店員さんはプロだ。
商品の知識も豊富だし、売るためのパッションに満ち溢れ、そのエネルギーがお客に伝わってくる。なのに、お客は即決してくれなかった。まぁ、そんなに買う気がなかったかもしれないし、本当に開かれる家族会議の前の下調べかも知れない。だから、どんな店員さんに説明してもらってもハートは動かなかったかもしれない。
でも、 私は、そんな姿をみて、ちょっとだけ違うことを感じた。
お客さんが、全く話をしていないことだ。延々と流れる説明を真摯に聴いていたし、「へぇ」とか「ほぅ」とかの相づちは打っていたが、「私はこう使いたいんですよ」といった、主語で始まる言葉が無かった。これが、セールスするときのキモなんだな…と感じるのだ。
人の購買意欲というものは、ある意味衝動的で、ある意味慎重だ。感情で買い、後で、買った理由を理屈で後づけする。理屈より感情に振り回される面も多い。顧客というのは、自分で自分の感情を高めながら、買いたい欲求を高めるながら買うのでは無いかと思う。そのためにも、「自分はこうだから」「自分はこうしたい」「自分はこうだと思う」といった具合に、自分の買いたい理由を言葉にして表現することがとても重要なのだ。そして、その感情を上手く表現できるように、セールスする側は引き出し、聞き役に回る事がすごく大きな意味を持つのだ。人は自分の言葉や想いを聞いてもらうだけで共感してもらった気がする。さらに、具体的に自分の考えを引き出してくれ、整理してくれるような人に信頼を置く。だから、上手に聞いて貰う人から買いたいと思うのだろう。
会話というものは質問でできていると思う。
だれかに何かを話しかけたら、質問で返ってくれば、さらにそれに回答をする。それが繰り返されることで会話が成り立つのだ。質問されると、常に自分が主体になる。自分が主体になる会話というのは、実に気分が良いものだ。それだけで相手に気を許したくなる。恐らく、自分が心を許している相手、もしくはホッとする相手は、質問上手ではないだろうか?
聞き上手は話し上手と同じ事だ。
上手に相手の話を聞いてあげれば、自然に共感が得られるであろう。
そんな事を考えた一コマであった。