

執筆者:後藤ようこ
ジブリ映画にみる「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」の違い
- 2015年12月02日
- コラム
【ご注意】本コラムは、あくまでも筆者の主観的な感想であり、作品自体を批評するものではありません。
なぜこんなにも違うのか?
先日、昨年度の映画館で上映された映画の観客動員数のデータがでました。
もちろん、第1位はだんとつで宮崎駿監督の引退作品である「風立ちぬ」です。
2013年の7月に公開され、興行収入は120億円。第2位のワンピースの68億円の約2倍です。
そして、第3位からは40億円以下ですから、その突出した観客動員数に驚くばかりです。
でも、ジブリ映画といえば、もう一本、昨年公開で話題になった映画「かぐや姫の物語」があります。
当初は「風立ちぬ」と同時公開(7月)の予定でしたが、その制作が延期され、11月に公開が延びた作品です。
こちらの作品は、従来のジブリ映画とは異なり、太い鉛筆の線で書いたような迫力あるアニメーションで、その手法はものすごく手間のかかるやり方の作品でした。高畑監督がこだわりあまりに、予定の7月公開に間に合わなかったそうです。
私は、この2作品とも映画館で拝見しました。
「風立ちぬ」は宮崎駿監督の最後の作品というだけあって、力の入った懇親の一作でした。これだけの興行収入を記録するのも分かります。
しかし、驚いたのはここではありません。
「風立ちぬ」から数ヶ月立ったのち観た「かぐや姫の物語」の秀逸さです。
それはそれは素晴らしい物がありました。
絵の迫力や様々な演出、アニメの登場人物の演技(表情)、シナリオなど、全体を鑑みると、正直「かぐや姫の物語」の方がずば抜けていたような気がしたからです。もちろん、これは、好みもあるので一概にはなんとも言えません。
しかし、「風立ちぬ」の後で公開された「かぐや姫の物語」は、それほど大きな話題になっていないような気がします。(もちろん、それなりに観客は入っていますが)
私の目から観た時に、これほどの差が、両作品にあるとは思えないのに、どうしてこんなにも世間の反応がちがうのだろうかと、空恐ろしくなってしまったというのが、正直な感想なのです。
現に、映画好きが参考にするという「キネマ旬報」の方がランキングでは、「かぐや姫物語」が第4位で、「風立ちぬ」は第7位でした。ランキングが逆転しています。それどころか、邦画部門の1位はとれていないのです。
当然の如く、興行収入と作品のあれこれは完全に合致するわけではありません。逆に、世論の評価イコール、作品の評価だということも十分理解できます。しかし、この開きはなんなのでしょうか?これが、今の日本の世論の風土を象徴しているのではないかと思ったのでコラムにまとめてみたいと思います。
みんながいいと言っている
この現象をうけ私は、「風立ちぬ」が劇場公開している間のFacebookのニュースフィードを思い出しました。
多くの人が、映画館で「風立ちぬ」を観たとFacebookに投稿していました。
いつもは、さほど映画の事など触れない方々も、こぞって観に行っているのです。
それはまるで、「この映画を観なかったら、みんなの話題に入れない」とでもいわんばかりの賑いです。
私は、その光景がとても不思議でした。
Facebookで観た投稿の数々の比率を思い出せば、興行収入第1位の120億という数字は納得できます。
しかし、もう一つ私は不思議に思う事がありました。
その映画の具体的なレビューが無い、ということです。皆さんは「とても美しい映画だった」とか「感動した」とか、そのレビューが漠然としていて、具体性が見えませんでした。その時から、違和感を感じていたのですが、キネマ旬報のランキングなどを観てちょっとだけ納得しました。
それは、
“みんながいいと言っている。みんなと一緒に感動をシェアしている。”
という事かもしれないということです。
つまりは、感動のシェア自体を深く体感しているということです。
そんな感動の渦巻く中「私は、この映画イマイチだった」なんて書こうものなら「感受性が足りないのでは?」とか言われてしまいそうです。(笑)
そうです。
日本の世論の多くは皆、マジョリティという大多数の反応を見て、大多数の反応に従いたいという「同調」の心理に向かいやすいのです。
だからこそ、誰もがとりつかれたように同じものに感動し、それがまたシェアを生み、それがさらなるシェアを生むのです。そのシェア自体を楽しんでいるようです。
そう考えれば、具体的な自分の感想やレビューが少ないのも頷けます。
そういう意味では、「風立ちぬ」の方が「かぐや姫」よりも分かりやすかったのだと思われます。
しかし、このシェアに埋もれた現象をただ外から眺めているだけでは意味がありません。
こういった世論の流れを分析し、販促でも活用することをおすすめしたいのです。
分かりやすい共感
この現象をうけて、販売促進を考える我々は、いつも顧客にアドバイスしていることをもう一度まとめて書きたいと思います。
まずは、「分かりやすい共感」を育てることから始めるといいということです。
例えば、実績や事例です。Webサイトやパンフレットに、お客様の事例や感想などを積極的に掲載してみることから始めるといいでしょう。
「お客様の声なんて古い手法では」と思わないで下さい。
お客様の声がなんとなくありふれた手法に感じるのは、そこにリアリティが無いからです。
写真や作品もなく、イラストのアイコンと匿名で感想を掲載されても、そこにリアリティはありません。
パッと見た時に、読んだ人が感情移入できるような事例をご紹介することが大事です。
よく、直筆のお客様アンケートを掲載している所もありますね。
それはとてもいいとは思いますが、当たり障りのないアンケートが並べられるよりも、もっと深く突っ込んだ感想を掲載するとより良いと思います。例えば、お客様にちょっとしたロングインタビューをして文章にまとめて掲載するのもいいと思います。貴社のサービスをうけ(商品を購入し)、どこがどのように良かったかをきちんと語ってもらうことが良いと思われます。
シェアしてもらえる感動を
さらに、情報のシェアはばかになりません。
昔ながらの井戸端会議。井戸端でご婦人たちが時間つぶしにするうわさ話は、今で言う口コミでありFacebookのシェアであり、Twitterのリツイートです。(笑)
良いことも悪いことも、一気に広まりやすい世の中で、この感動のシェアをうまく使いこなさない手はありません。
顧客に小さな感動を与える事はできないか?
何かを考えることも有意義です。
例えば、クリーニング屋さんだったら、コートのクリーニングを出してくださったお客様に、ブーツをしまう時期になった時に使える、革のお手入れ割引チケットなどをタイミングよくお送りするとか。そういったたぐいの小さな感動です。さらにステップアップして考えるなら、ブーツのヒール修理業者さんと組んで、ヒール直しの割引券なども良いかもしれません。(ちょっと飛躍しすぎました)
このように、シェアしてもらえる感動を積み重ねる事でジワジワとその効果を得ることが可能なのです。
ジブリ映画から、販促の工夫まで、ちょっと飛躍しすぎましたね。でも、ぜひ、参考にしていただければと思います。